石炭火力発電に手痛い判決――英国で、気候変動抑止の転換期を示す無罪判決下る
RELEASE ENERGY 2008.09.10

石炭火力発電に手痛い判決――英国で、気候変動抑止の転換期を示す無罪判決下る

【ロンドン 英国】 気候変動に影響を与える石炭の燃焼を止めようとして刑事訴訟を起こされた国際環境NGOグリーンピースUK(英国)のボランティアスタッフ6人に対し、イングランド刑事法院の陪審団は9月10日、無罪の判決を下した。この判決は、石炭火力発電を推進する英国政府のエネルギー政策に大きな打撃を与えている。

グリーンピースの6人は昨年、英国南部ケント州のキングズノース石炭火力発電所の煙突に登り、煙突の側面に英国首相の名前をペンキで描いたことで刑事訴訟を起こされていた。原告の訴えに対し、被告たちは「無実」を主張。彼らのとった行為は、石炭火力発電所より高い価値をもつ多くの資産を地球規模の危険な気候変動による損壊から守るため、石炭火力発電所を閉鎖しようとして行われたもので、「正当行為」(lawful excuse)と認められるべきであると法廷で訴えた。

9月10日に下された無罪判決は、英国政府の新しい石炭火力発電所計画に対し、一般市民を代表する陪審団からの挑戦といえるだろう。陪審団は証人喚問後、危険な気候変動を抑止するため人間が直接的な行動をとる権利を支持した。この判決は、各国政府に良い前例を示すとともに、世界の人々に危険な気候変動を抑止するためには石炭火力発電所に対し行動を起こす勇気を与え、そのような行動を後押しするものだ。

イングランド刑事法院の5日間にわたる証人喚問で証言台に立ったのは、ゴア元米副大統領の顧問を務める世界的な気候科学者ジェームズ・ハンセン博士、北極の海氷減少に直面するグリーンランドの先住民族イヌイット、国土が水没の危機に瀕する南太平洋のツバル島民、そして英国保守党の環境問題顧問など。陪審団は証言から、キングズノース石炭火力発電所は一日2万トンもの二酸化炭素を排出していること、それは汚染のもっとも少ない30カ国が排出するCO2の総量に等しいこと、また政府がケント州ホー半島にある石炭火力発電所の隣に新たな石炭火力発電所建設計画を進めていることなどの事実を知らされた。

「今回の判決は気候変動運動の転換点だ」と、被告の一人ベン・スチュアートは語った。「英国人気質を代表するケント州の陪臣員たちが、石炭火力発電所が私たちの地球にダメージを与えるという理由で、その発電所を閉鎖するための行動を正当と判断した。だとしたら、いま英国政府がとっているエネルギー政策はどうだろう? 石炭のかわりに、一刻も早く私たちの経済にとって持続可能な技術で電力を供給するときだ!」

被告団は、世界的な気候科学者と知られるNASA(米航空宇宙局)ゴダード宇宙研究所の所長ジェームス・ハンセン教授を証人に招いた。同教授は証言の中で、気候変動のために100万種以上の生物が絶滅していると述べ、そのうちの400種はキングズノース石炭火力発電所からのCO2排出量によるものであると推算した。「私たちは重大な危機に直面している」とハンセン教授は陪審団に語り、もっと多くの人々が石炭火力発電所に体を鎖でくくりつける(典型的な非暴力直接行動の一つ)べきだというアル・ゴア氏の主張に賛同すると強調した。

保守党の環境問題顧問ザック・ゴールドスミスも被告団の証人として、「政府内には、英国が石炭火力発電所を増設すると、中国やインドのような国々に圧力をかけにくくなるとの感触がある」と証言した。さらに、「現行の法律を遵守するかどうかはさておき、一つの犯罪が他のより大きな複数の犯罪を抑止することを目的としているならば、多くの人はそれを認め、共感するだろう」と、陪審団に語った。

証言に保護の必要性ありと言及された資産類には、海面上昇により危険にさらされているケント州の一部、太平洋の島嶼国ツバル、グリーンランド各地などが含まれる。被告たちは、北極の氷床、中国の黄河地域、南極のラーセンB氷床、バングラデシュの沿岸地域、ニューオリンズ市なども保護が必要だと語った。

今回の無罪判決は、気候変動による損壊から資産を守ることが、法廷で「正当行為」の観点から争われた英国法曹史上初めてのケースだ。これまで、独立前の東チモールを攻撃するためにインドネシアに向け輸出直前の軍用戦闘機を破壊したとして訴えられた市民運動の被告団が、同じく「正当行為」を主張して争い、勝訴した例がある。

被告たちは煙突の側面に「ゴードン首相、この発電所をゴミ箱に捨ててください」とペンキで描きつけようと試みたが、イングランド高等裁判所の中止命令で警察のヘリコプターによって中断され、首相のファーストネームだけしか描けなかった。

8月にヨーロッパの主要なエネルギー・コンサルタント企業ポイリ社が発表した新しい報告書は、英国は新たな石炭火力発電所なしでエネルギー需要を満たすことができると結論づけている。もし英国がエネルギー効率と自然エネルギー導入に関して既定の目標を達成できれば、キングズノースのほか少なくとも7カ所の新しい石炭火力発電所は必要ない。

お問い合わせ:
特定非営利活動法人グリーンピース・ジャパン
広報マネージャー 城川桂子
グリーンピース英国支部 + 44 207 865 8255

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